今日はいつもとは趣向を変えて、昔の話を思い出すままに……。
社会人になってすぐ、同僚と一緒に夜行列車に乗って伊豆沼にハクチョウを見に行ったことがありました。それまでは、湖や池にいるハクチョウ(コブハクチョウだったんだと思います)は見たことがあっても、空を飛ぶハクチョウを見たのは初めてでした。
その頃はカメラに興味があり、同僚のお古のPENTAX SPと望遠レンズを含めて何本かを譲り受けたのが一眼レフとの最初の出合いでした。その時以来ですから、間にかなりのブランクがありましたが、PENTAX歴は相当な年数になります。
今から思うと、あれが最初のバードウォッチングだったと思えるのは、仕事の関係で著者とお付き合いがあるセクションの人の音頭取りで、高野伸二氏をお迎えして野鳥観察会が開かれたことがありました。場所は高尾山だったように思います。野鳥に特に興味があったわけではなく、同僚に誘われるままに行ってみたという程度でした。家にあった双眼鏡を持っては行ったものの、使い方も良く知らず、高野氏が「あそこに○○が」と指差す方向のどこに鳥がいるのかも見つけられず、「ああ、飛んじゃいましたね」と言われても、そのうしろ姿さえ見ることが出来ませんでした。
山道を歩いているときに、高野氏がクモを指さして何やら説明をしてくれたということだけが印象に残っていて、そのときに何か他の野鳥を見たかどうか、まったく覚えていないという、なんとも情けないものでした。
先日、蔵書の整理をしていたら、高野伸二著 『野鳥を友に』(朝日文庫1989年 単行本は1985年発行)が出てきました。
この本を手にして、しばし片付けの手がとまってしまいました。
この本の表紙のヒレンジャクを描いたのは、サントリーの野鳥の広告でおなじみだった薮内正幸氏です。鬼籍に入られた方ですが、ご闘病中に杉並区のご自宅で何度かお会いしたことがありました。残念ながら、仕事をお願いする前に亡くなられましたが、野鳥の話をもっと伺っておきたかったです。
山梨県北杜市白州町に、ご子息の藪内竜太氏が館長をつとめる薮内正幸美術館があります。
HPは → https://yabuuchi-art.jp/ ※冬季(12月~3月中旬)は休館ですので、ご注意ください。
『野鳥を友に』 を久しぶりに手に取ってみると、「環境に配慮した見方を」で語られている観察者やカメラマンへの苦言が、30年近く経った現在でも、同じことが問題になっていることに苛立ちさえ覚えます。
この本の中で、語意の変化について書かれているところがありました。
bird に er を付けた birder という言葉も時代とともに、その意味が変わってきて、『オーデュボンマガジン』1979年7月号に、bird-watcher は、のんびりと自然や野鳥を楽しむ人で、 birder は珍鳥が出たとなると目の色変えて飛んで行ったり、自分のライフリストには未だ入っていない鳥を見るためには相当な無理をする人で、自然の美しさとは関係なく一種のゲームをする人だという論説が載り、日本野鳥の会東京支部報でも紹介されたそうです。
最近は、そこで言うところの birder ばかりになってきた感がありますね。
話があちこちに飛びますが……。
その話で思い出したのが、このDVD。「ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して」
1年の間に、いかに多くの鳥を目撃したかを競う大会「ビッグ・イヤー」に参加を決意した3人が、お互い出し抜こうと騙し合い、蹴落とし合うコメディです。
私は観察記録は残しても、ライフリストを増やそうと東奔西走することはしませんが、このDVDは面白く観ました。
高野伸二氏の著書 『野鳥を友に』 の「あとがき」に奥様がお書きになっています。「長年胸の中にあたためていた夢、蜘蛛の図鑑を昨年(注:1984年)八月漸く出版することが出来ました。が、それから二ヵ月後にこの世を去ってしまいました。」
その蜘蛛の図鑑というのが、『フィールド図鑑 クモ』(東海大学出版会 1984年8月)です。
野鳥撮影の傍ら、クモの写真も撮るようになってから、クモの図鑑が欲しくなり、古本でしか手に入らなかったものを購入しました。最初に買ったクモの図鑑がこの本です。
現在、自分が使っているクモの図鑑は、この本の共同著者でもある新海栄一氏が、新しい知見を加えて出版した『日本のクモ』(文一総合出版 2010年第2版)です。
こうして振り返ってみると、最初のバードウオッチングといい、クモ(私の場合は主にハエトリグモに絞っていますが)にも興味が湧くようになったのも、一度お会いしただけの高野伸二氏とつながりがあることに不思議さを感じます。
1冊の文庫本を手にしたことから思い出したことでした。
この記事へのコメント
てつ丸
自分ではよく分かりませんが、珍鳥情報を教えて頂いても見に行く気になれない場合が多いです。
バードウォッチングで遠征する事もありますが、季節や周りの風景や雰囲気でスイッチが入ります。
珍鳥だけじゃスイッチが入りませんが、お目当ての鳥が撮れなかったらちょっと凹むかもしれません。
メンバラ
情報で直ぐに行動を起こすか否かは、単に行動力だけの問題ではないような気がします。いるはずのお目当ての鳥に巡り合わない時は凹みますね。